〈第10回〉公認されないグリーフ
喪失を体験した人がその喪失を周囲から認められなかったり、グリーフを抱える存在として認知されないことを「公認されないグリーフ」と言います。関係が認められない、喪失が認められない、喪失を理解できないと見られることの3つの例で考えていきます。
関係が認められないとは、配偶者との死別で考えると、多くは葬儀や死後の手続きに関わり、周囲からも連れ合いを亡くした人と認識されます。しかし、たとえば、関係を秘密にしていたり、認められていない恋人などは、死後の手続きや葬儀に関わることは難しいでしょう。同性のパートナーが病院での手続きにサインできないとか、遺体を引き取れない。パートナーの両親に自分との関係が認めてもらえず、葬儀に出られなかったと耳にします。婚約者や、SNSの知り合いだけど面識が無い友人なども、関係が周囲から認められにくい場合があるでしょう。
喪失が認められないとは、最近ではペットを文字通り家族のひとりとして愛情を注がれる人も多いでしょう。そうした人にとってペットロスは、大きなグリーフです。しかし、ペットがそれほど大きな存在だと認識しない人もいます。家族が亡くなれば仕事を休むことは当たり前でも、ペットが亡くなって休むなんてけしからんとか。人間の家族に比べ、ペットを失うことは軽く扱われることがあります。また、医療や介護、葬祭に関わり、日常的に死別を経験する人は、喪失体験が日常のことと軽んじられることもあります。
喪失を理解できないと見られるとは、小さな子どもや、認知症のお年寄りなどが、グリーフを抱える存在として周囲から認められないことを言います。子どもであれば大人と同じようには死を理解できなくても、おねしょや暴れたり、急に甘えるようになったり。お年寄りも、死別を理解することに大きく時間がかかったり、死別したことを忘れ、初めて体験したように繰り返すこともあります。
そう見えなくてもグリーフを抱える人は多くおられます。喪失体験を人に明かせなかったり、グリーフを言葉にすることができない状況もあります。グリーフを抱える人を認め、抱えるグリーフを軽く見ないで、安心して悲しめる環境が必要です。